2011/07/15

東京大学iTunes Uにて「ハーバード白熱教室 in Japan」を公開!

私の勤めている東京大学・大学総合教育研究センターより、東京大学iTunes Uにて「ハーバード白熱教室 in Japan」のビデオが公開されました。昨年8月に安田講堂で開かれた講義の模様が(ほぼ)ノーカットで収められています。

マイケル・サンデル「ハーバード白熱教室 in JAPAN」2010 - The University of Tokyo の無料コンテンツを iTunes で無料ダウンロード
http://itunes.apple.com/jp/itunes-u/id448069376?ls=1

講義には同時通訳が入り、サンデル教授の問いかけに対し、参加者は英語または日本語で答えました。音を聞かなくても内容が分かるように、全編に日本語字幕を入れています。現状、字幕文字は「中寄せ」になっていますが、改行の入る字幕だと「左寄せ」が正しいとのこと。後日、修正をする予定です。

ビデオの制作は、私が統括するTREEオフィス・コンテンツ開発室が行いました。ほぼ全ての作業をオフィスに勤める学生スタッフが行いました。3時間超にわたる講義の文字起こしをしたNさん、英語の日本語訳したYさん、字幕表示のタイミング調整と最終仕上げをしたHさんに感謝。年明けから長々と取り組んでいた仕事が、ようやく一つ終わりました。

「ハーバード白熱教室 in Japan」の大きな告知バナーが、iTunes Uのトップページに載せられています。バナーの掲載には、アップルジャパンのみなさまに多大なご助力を頂きました。深く感謝。

今回は講義ビデオに加え「ハーバード白熱教室 in Japan 公開にあたって」と題し、講義のダイジェスト映像と本学の大学総合教育研究センター長・吉見先生のインタビューも公開しています。サンデル教授の講義を一過性のイベントにとどめず、大学教育改革の礎にするというメッセージが語られています。こちらもぜひご覧ください。

2011/07/02

リフレクション・ツールとしてのiPad



先週iPad2が手元に届きました。薄さや軽さ、動作の速さにばかり注目されがちなiPad2ですが、私が推したいのはカメラとiMovie for iPadです。静止画撮影の画質こそiPhoneに及ばないものの、動画なら720pのムービーが手軽に撮れます。iPadを両手で持ちながら撮影し、 iMovieでちょっと編集するだけで、結構見るに耐えるムービーができました。日暮れ近かったので暗く、色味が少々怪しいですが、なんとか許せる範囲です。

iPadなどタブレットを学習ツールとして導入する大学は随分と増えましたが、小中学校の教育現場でも導入が徐々に進んでいます。私の知り売る範囲では、電子教材や電子教科書を授業中に使ったり、ドリルアプリで自学自習を促すような教育実践が多いようです。

私自身は、iPadのメディア制作能力を生かした「リフレクション・ツール」の可能性に期待しています。
総合学習や社会・理科などの教科で、生徒の学習成果や学習履歴を残し共有するためのポートフォリオ作りが行われています。調べ学習の結果やプロセスをメディアを使ったポートフォリオとして残すために、特別なスキル習得を多く必要とせず、一つの端末で素材収集から編集、プレゼンテーションまで一元的にこなせるiPadは、理想的なツールと言えます。

ただし、ポートフォリオを学習に活かすには、生徒が見聞きしたことをコンテンツとして残すだけでは不十分です。授業目標の明確な設定や、学習者の振り返りを促す授業の構成など、ポートフォリオを作りっぱなしで終わらせないような工夫が必要です。私自身も思案し続けている段階ですが、近々いつか、このアイデアを実際の教育現場で生かせるような仕事をしたいと考えています。

2011/06/22

Partystream for JAPAN収録・「学ぶ」と言うことの躊躇について

先週の土曜日、都内で開かれた「Partystream for JAPAN」にスタッフとして参加した。

6/18 PARTYstream for JAPANのお知らせ! » PARTYstream(パーティストリーム)
http://partystream.jp/?p=361

私の役割はイベントそのものや準備の様子を映像収録することで、午前中から夜半過ぎまで、10時間連続の撮影となった。とても私一人でできる仕事ではなく、ボランティアで参加してくれた教育部のNさん、Sさんが手伝ってくれた。二人の助けでなんとか乗り切ることができた。感謝。
翌日映像をチェックしたところ、かなり多くの良い画が撮れていた。近日中に数分程度のダイジェストムービーを制作する。出来上がりが楽しみである。

当日の様子は、私が同じ研究会に参加している福島さんのブログが大変よくまとまっていたのでご紹介したい。

FUKUSHIMA NOTE : 奇跡のイベントParty Stream にいってきた!

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何か非常に参考になったり、多くの発見がある話を聞いた時に、相手に今日は学ぶことが多くありました、勉強になりましたと伝えることがある。その時、大変嬉しそうな顔をして、どういたしましてと仰る方と、けげんな顔をされる方とに分かれる。お世辞でも何でもなく、ただ多くを知り得たことに感謝を述べたのだが、いい大人になって何を今さら「学ぶ」だの「勉強する」だのと、奇妙に思われるのかもしれない。

しかし、どんな専門家であっても、ある時点でその人の知識や技術の習得が止まることはない。ある分野でプロとして働き続ける限り、周囲から何かを得て見識や技能を高めることができる。専門家の中には敢えて「学ぶ」「勉強する」という言葉を使わない方もおられる。プロとして働き報酬を貰っているのだから、発展途上であるような表明を躊躇するのかもしれない。私個人の考えでは、そのことを恐れるよりも、持ちつ持たれつで成長する意思を互いに堂々と表明し承認しあうほうが、生産的で健全に思える。

私自身が「学び」や「教え」を取り扱うことで暮らしている人間だから、そこから生じるバイアスには慎重にならなければならない。「学ぶ」「教える」という単語に、ポジティブでない印象があるのかもしれない。だがそれを踏まえたとしても、例えばPartystreamのようなイベントに参加した人が、帰り際に「面白かった」「楽しかった」だけでなく、「いろいろ学びました」「いい勉強でした」と屈託なく話してもいいし、その方がなんだか楽しい世界のように私には思えるのである。

2011/03/21

国難を乗り越えるための、私の小さな2つのアイデア

東日本大地震から10日間経ちました。この週末は家族とともに、妻の実家がある大阪に「疎開」しています。東京を離れることの心苦しさもありましたが、おかげさまで家族共々少しずつ元気を取り戻しつつあります。

先日、MITの飯吉先生より以下のツイートがありました。

http://twitter.com/#!/iiyoshi/status/48748283170004992
日本全国の大学生・大学教職員の皆さん、この連休中に、今この国難を乗り越えるために、是非大学にしかできないことや大学人の叡智を結集してうまく率先できることを考え、休み中や休み明けに同僚や仲間と話し合ってみてください。また、アイデアなどをツイッターやブログで大いに発信してください。

これを受け、私が一人の大学教員として何ができそうか、考えてみました。素人考えのため、本当に実現できるのか、意味があるのか、議論があるかと思います。構想を深めて批判も受けつつ、引き続き自分に何ができるのかを考えていくつもりです。

アイデア1:被災地にて、新しい学校建築の提案につながるフィールドワークを行う

かねてより、学校建築は地域において、子どもの学びの場としてだけでなく、災害など緊急時に人々が当座をしのぐ避難所としても想定されてきました。学校にはその備えがありましたが、今回の震災でその想定が十分でだったのか疑問が持たれています。ここ最近、東北・関東地方の学校では、避難した人々が底冷えのする体育館や教室で睡眠を取られ、物資の不足や通信インフラの途絶に苦労されていると報じられています。

この問題を看過せず、学校建築を再考する貴重な機会と捉えてはどうでしょうか。例えば学校の避難所に、建築学・社会学・教育学など幅広い分野を専門とする教職員や学生が赴き、現地で支援活動をしながら中長期的にフィールドワークを行い、「緊急支援施設」としての学校建築の問題点や改善点を洗い出すのです。そこで得られた知見から、建物の強靱性や必要な物資の保管、独自の通信インフラの整備など、新しい学校建築に求められる有意義な提案ができるのではないでしょうか。

なお、私の専門分野である教育工学では、伝統的に学校建築が研究テーマの一つとして掲げられてきました。このような蓄積された知見を生かすことも有用でしょう。
CiNii 論文 -  学校建築計画研究の展開-30年
http://157.1.40.181/naid/110003026612

アイデア2:被災地をフィールドとした実践研究を中長期的に行う

上のような特定分野に限らずに被災地をフィールドにした実践研究を、特別の助成などを用意した上で奨励するという構想です。分野や方法の検討を慎重にした上で、被災地の様々な場所で、若手の教員や学生が自らの専門知を活かしながら、将来的な現地の復興にも役立つような実践研究を中長期的に行うというものです。これを現地でのボランティア活動と合わせて行えば、現地の復興支援自体も多少なりともお手伝いできるかもしれません。

なお私は、この構想で若い教員や学生が被災地に向かうこと自体に副次的な効果があると考えています。被災地の状況をメディアで知り寄付や物資を送ることに加え、被災地に実際に赴いて現地に触れることが、この国難の経験を私たちがより多様な形で語り継ぎ、未来に生かすきっかけになるのではないでしょうか。

2011/03/13

出張中の地震。札幌で足止めの後、帰宅。

金曜日の地震からまる2日経ちました。被災された方々に、心からお見舞いを申し上げます。

おととい私は、出張先の北海道大学から帰宅途中、新千歳空港で地震に遭いました。受付カウンター前のソファーに座っていた時に揺れを感じました。長い横揺れが続き、天井から吊ったポスターが大きく揺れ、窓ガラスの枠からもミシミシと音がし、床に立てていた看板も倒れました。逃げる場所もなく、自分の荷物を横たえて倒れないようにし、隣の人に声を掛けるのが精一杯でした。

その後、滑走路の点検が始まりましたが、余震も続き運行は1時間程度止まりました。プロペラ機から発着が始まりましたが、羽田行きの便は出発のめどが立たず、程なく私が予約していた便も欠航になりました。その場ですぐ、iPhoneで札幌市内のホテルの予約と、翌日便への予約振替をし、午後6時頃には札幌駅に引き返しました。

空港と宿で、家族とオフィスへの連絡を試みましたが、連絡が取れず気を揉みました。テレビやネット上のニュース、Twitterのタイムラインを見るうちに、大変なことになっていることを知りました。暫くして、家族とオフィスと連絡がつきました。オフィスの方々は学内で避難していました。嫁さんはちょうど上京してきた友人と都内にいて、新幹線で帰った友人を東京駅で送り出した後、徒歩で帰宅していました。

私はその翌日、夕方に帰宅しました。都内は思った以上に落ち着いており、家族にも会い一安心しました。原発のことや、余震の可能性もありまだ油断は禁物です。今日はひとまず、余震に備えて家の整理と防災グッズの確認を行いました。明日からはオフィスの片付けも始まります。メリハリをつけながら、復旧と警戒につとめたいと思います。

2010/12/11

【記事解説】カリフォルニア州で進む、電子教科書を使った教育

ネット上で興味深い記事を見つけました。カリフォルニア州で進められている電子教科書利用についての解説記事です。その中身をかいつまんで紹介します。

California Embraces Open Source Digital Textbooks -The most populous state is the first to take on this complicated initiative-
http://www.edutopia.org/california-open-source-digital-textbooks

全米初のプロジェクト:オープンソース電子教科書

California Learning Resource Network(CLRN)は、全米初のオープンソースを活用した「電子教科書イニシアティブ」で、2009年5月に立ち上げられました。このイニシアティブの目的は、電子教科書の開発ではなく、その「評価」です。さまざまな個人・団体から寄せられた電子教科書がどの程度州の基準に見合っているか「評点」をつけて、イニシアティブのウェブサイトに、評定結果と教科書へのリンクを載せています。第一回目の評定では、16の評価結果が掲載されました。
(先ほどCLRNのサイトを確認したところ、すでに第二回の評価結果も掲載され総数は33となっています。現在、第三回目の募集が行われているようです。)

California Learning Resource Network
http://www.clrn.org/home/

評定された電子教科書の中には、紙の教科書をスキャンしただけのものもあれば、補助教材へのリンクが埋め込まれているようなデジタルの特性を生かしたものもあります。州の教育担当大臣が「これはハードウェアではなく、コンテンツである」と話しているように、カリフォルニア州では電子教科書のソフトウェアに焦点をあて、デジタル教科書に「お墨付き」を与えて教育現場での利用を促しているようです。

オープンソースでコストを削減、オリジナルの教科書も作れる


カリフォルニア州が電子教科書をを推進している大きな理由の一つが、教育コストの削減です。電子教科書をオープンソースとすることで費用負担をなくし、教科書にかかる費用を低減することを狙っています。一方、電子教科書が生徒一人一人に使われるには、生徒それぞれにPCなど電子端末が必要です。米国ではメーン州など、州のほぼ半分の高校生にノートパソコンを配った地域もありますが、カリフォルニア州では財政難もあり、まだ途上のようです。

 米国では「CK-12 Foundation」や「Curriki」など、オープンソースの素材をWeb上で自由に組み合わせて再編集(remix)し、オリジナルの教科書を作れるサービスもあります。ここでは、ユーザーごとにアカウントを持つことができ、サイト上の素材を組み合わせて教科書を作ったり、iTunesの「プレイリスト」のように自分のコレクションを作って他のユーザーに紹介したり、テンプレートを使って作った教材を互いに評価し合うこともできます。

教育現場での利用も進む、携帯に対応も


素材がオープンソースであることを生かして、独自の教科書を作い授業で利用する実践も進んでいます。教師の教えたい内容や教え方に即した教科書を作ったり、デジタル化されている強みを生かして検索機能やビデオ、クイズを埋め込んだ教科書が作られています。将来的にはPCが手に入らない生徒のために、携帯電話からも見ることができる教科書も視野に入れています。カリフォルニア州では現在、数学と科学の教科書のみ評定されていますが、将来これを他の教科にも拡げる予定です。インディアナ州・フロリダ州・バージニア州など他の地域でも、同じような取り組みが広まりつつあります。

この「電子教科書イニシアティブ」が本当にうまくいくのかについては批判もあるようです。しかしカリフォルニア州としては、電子教科書を州の教育システム改善への重要なステップと位置づけ、強力に推進しています。記事に掲載されている電子教科書を使い始めている教師からも、「もう重くて高い紙の教科書にはもどらない」とのコメントが寄せられています。

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以上、記事紹介でした。多少かいつまんでいますので、興味を持たれた方はぜひ原文に目を通して見て下さい。
こういう記事に出会うと、「さすがシリコンバレーもあるだけに、先進的だなぁ」と思いがちですが、かの地の教育を取り巻く状況は、非常に複雑で深刻です。しかしこのような差し迫った状況だからこそ、多くの人々の知恵が絞られ、新しい取り組みが生まれているのかもしれません。引き続き進捗を見続けたいと思います。

2010/12/06

【転載】アメリカ大学事情(2):大学財政の悪化とキャンパスにおける抗議活動

東京大学学内広報より転載している「アメリカ大学事情」。今回は2回目、カリフォルニア州の財政悪化のあおりを受けたUC Berkeleyで起きたデモ活動など、私の経験をご紹介します。

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学費値上げに対抗する学生デモ


私が米国にいた2009年、赴任地のUCバークレーでは公立大学の財政事大学財政、激しい抗議活動情の悪化による様々な動きがありました。2008年に起きたリーマンショック以降州からの補助金が削られ、米国の公立大学は財政的な窮地に立たされていました。米国の中でも景気悪化が深刻であるカリフォルニア州ではその影響も深刻で、私が滞在していた昨年はキャンパス内でも数々の混乱がありました。

私がバークレー校に赴任したのは8月末でしたが、帰国した翌年3月頭までの間に計3回のデモ活動がありました。そのうち2回は2009年9月と11月に起こったもので、学費の値上げ(州内からの学生で25%増)に反対する学生によるデモでした。その中でも11月のデモは大規模で、学生がキャンパス内の通りを塞ぎ、学生や教員に講義を欠席・中止するよう呼びかけました。学生デモ隊は講義棟の一つを占拠し、学内の警察隊に加え地元の警察も出動する騒ぎとなりました。結局、その日は休校日となり、私もデモ運動を横目に見ながら帰宅しました。

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デモの変化:学生と教員がともに州へ抗議


ところが翌年3月に起こったデモ活動は、少し様子が違いました。デモの矛先が大学から州政府へと変わったのです。大学の財政が逼迫しているのは大学だけのせいだけではない。補助金をカットし教育に充分な予算を割かない州政府にも原因があるのだー このような論理のもと、キャンパスに「Public Educationを守らねばならない」という共通認識がキャンパスで生まれ、大学に関わる人々が一丸となって大学の窮状を州政府に訴えました。この時のデモ活動では、教員と職員、学生が共に州都のサクラメントや近隣の州事務所にパレードし、教育予算カットを止めるようデモ活動を繰り広げました。なお、このような活動がUC Berkeleyだけにとどまらず、全州の大学で同時多発的にデモ活動が行われました。

学内でデモ活動が起こるたびに、UC Berkeleyの学長からキャンパス全員のメールアドレスへ向けて、冷静に大学の窮状を説明し、感情的な行動を避けて困難を乗り切ろうと訴える一斉メールが送られていました。また教職員は無給休暇(Furlough)を自主的に取って経費削減を目指す運動を行っていました。この取組みは一年間続き、これにより人件費の4-10%を削減することができたそうです。


アダルトスクールでも経験した財政事情の厳しさ


なお余談として、私が英語を学ぶために通っていたアダルトスクール(Adult School)でも、財政問題は深刻でした。私はBerkeley Adult Schoolという公立のアダルトスクールに通っていました。アダルトスクールは、若い人に限らない幅広い世代に向けて、語学教育や専門スキルの教育などを行なっており、特に移民や留学生に向けたESL(English as a Second Language:英語を母国語としない人達のための英語教育)には数多くの受講者がいます。私が留学した2008年度まではESLのクラスは無料でしたが、2009年より一人数十ドルの受講料を払うようになりました。また教員の数やクラス数も減らされ、一ヶ月遅れで渡米した私の妻は、人数超過のため受講できず、他のアダルトスクールを探さねばなりませんでした。


【参考URL】
Year-Long UC Furlough Program Ends - The Daily Californian http://www.dailycal.org/article/110176/year-long_uc_furlough_program_ends