2012/01/22

【解説】新しいiBooksとiTunes Uがもたらすもの(1)

19日、AppleよりiBooks・iTunes Uについての発表がありました。

OpenEducation Update JP: Appleが新しいiBooks、iBookstore、iTunes Uを発表
http://oedupdate.jamsquare.org/2012/01/appleibooksibookstoreitunes-u.html


Appleによる教育の「再発明」を目指した、新しい提案とも言える内容でした。多くの教育関係者にとって魅力的なツールやサービスであると思われますが、これは教育に携わる個人や学校、大学に対してどのような変化を与えうるのか、考えてみたいと思います。


iBooksとiBooks Authorによって、教師はAppleが言うところの「動的で魅力的、インタラクティブ(dynamic, engaging and truly interactive)」な教科書を簡易に作成し配布できるようになります。日本では検定教科書制度があり、既存の教科書はそう即座に置き換えないでしょうが、iBook Authorで副教材を作り授業で補助的に使い、学習内容の理解を促すこともできるでしょう。

教科書のデジタル化は教育コストの削減につながると言われますが、iBooksで有料の教科書を買う場合、効果は限定的です。テキストは生徒個人のApple IDに紐づくと思われるため、授業ごと、学年が変わるごとにiBookstoreで教科書を買うこととなります。使い回しや買い取りはできません。

iBooksの電子教科書は(興味深いことに)Macで閲覧できません。教科書のビューアーとして、生徒一人一人にiPadが必要です。また、iBookstoreに教科書を載せるにはiTunes Connectへの登録が(おそらく)必要で、(おそらく)有料のADCメンバー登録が必要です(回避方法はありそうですが)。有料の教科書は規約によりAppleを介した販売に限定されます。(※追記:発表後に規約の変更がありました)

おしなべて、iBooksとiBookstoreは魅力的なツールである一方、使う教師と生徒に対し、相応の出費を求めます。ただ、iBooksアプリやiTunes Authorを無料で配布することは、大変素晴らしく、高く評価できます。


iTunes Uについて、iTunes Uは大学だけでなく小中学校からも使えるようになりました。日本での開始時期はまだ未定ですが、授業で使う教科書やビデオ、資料を配布する基盤(プラットフォーム)としてiTunes Uを使うことは、教材配布の利便性を多いに高めます。インターネット上のデジタル教材が抱える大きな問題の一つは、適切な教材を見つけることが難しい点です。iTunes Uはデジタル教材の検索性(Discoverbility)を高めるきっかけになりそうです。

今回の刷新で、iTunes U上だけでオープンコースウェアのような授業概要やシラバス、テストなど授業で提供されるほぼ全ての素材を包括的に提供できるようになりました。加えて、利用者のApple IDに紐づいたノートも用意されます。将来の可能性として、個別のApple IDごとに学習履歴を管理すれば、現在多くの大学が運用しているLMS(Learning Management System:学習管理システム)に近い機能を実現できます。仮に大学の持つ単位履修・ID管理システムと連携できれば、強力な「教育クラウド」に化ける可能性も秘めていそうです。

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長くなりましたので、ここで一旦区切ります。

次回は、iBooksとiTunes Uを使うことによる、学校や大学に課せられる課題について考えます。