2011/12/09

オープンエデュケーションを理解するための3つのキーワード


先日参加したOpen Education Conference 2011から一月ほど経ちました。学会で見聞きしたことについて私なりに振り返っていますが、改めて一体「オープンエデュケーション」とは何か?という問いに突き当たっています。オープンエデュケーションの概念や目的は様々に捉えられ、多様な実践が行われています。その全てを包括して理解することは容易でありませんが、私なりにオープンエデュケーションを理解する上で重要と思われるキーワードを挙げてみたいと思います。

■機会促進(Opportunity)
「オープンエデュケーション」という用語は、これまで教育機関が行ってきた伝統的な教育活動に含まれない「教え」「学び」を広く指して使われます。オープンエデュケーションに深く関する事例として「オープンな教材:OER(Open Educational Resources)」の開発普及が挙げられます。現在、国内外の様々な教育機関がオープンコースウェア(OCW)などのOERを開発し、無償でインターネット上に公開しています。

OERを普及させる目的の一つは教育機会の促進です。ネット上に自由に無償で使える教材を用意することで、教育機関に属していなくとも学校教育での利用に耐えうる質の高い教材を使って自ら学ぶことができます。最近ではこのような無償教材を使うスタディグループなど、OERを活用した様々な取り組みやサービスも生まれています。OpenStudyは、MITのオープンコースウェアなどを使い学習者が互いに質問し合いながら学び合うウェブサイトで、MITなど教材を公開している教育機関の合意を得た上でOERを学びに取り入れています。

About Us – OpenStudy – Make the World Your Study Group -
http://openstudy.com/about-us


■互恵性(Reciprocity)
OERの普及により教材の入手が容易になったとしても、インターネット上の教材だけで一個人が学び続けることは困難です。先ほどのスタディグループは好例ですが、OERを使って学びたい多様な専門性や得意分野を持つ人々が集まり教え学び合うことは学習効果の向上やリテンションの維持に有効です。一方向的な教授学習の形態ではなく、学ぶにあたって学習者が集団的に互恵性を発揮することが求められます。

加えて教材自体がこのような集団の中、教育機関の外で作られる事例も見られます。Khan Academyは一般人が数学や理科の教材を作成してYouTubeで公開することで始まったウェブサイトで、教材の質の高さから世界中で多大な人気を博しています。一つの可能性として、教育機関が直接関わらなくとも教えと学びのサイクルが生まれ、学習者が相互扶助の中で学び続けるようなコミュニティが生まれることも将来的に考えられます。(Yahoo知恵袋はその端緒と言えるかもしれません)YouTube EDUやiTunes Uのような、教育機関が関わらずとも教材が流通する教育の「グローバルプラットフォーム」とも言える仕組みを民間企業が提供していることも、このような活動の一助となっています。

Khan Academy -
http://www.khanacademy.org/

■補完性(Complementary)
OERやインターネット上のスタディグループで学んだことは個人の知識獲得に結びつきますが、あくまで「自学自習」であってそのままでは社会的に認知されることはありません。オープンエデュケーションによる学びをただ一個人の孤立した活動にとどめず、既存の教育システムの中に位置づけることが学ぶことの意味合いを増します。大人が卒業した後に仕事内容や職場環境の変化により、新たに必要となった知識や技能について学び直す必要性も増えています。働きながら時間を見つけて大学や専門学校に毎日通うことが困難であれば、その一部をOERを使ったスタディグループで学んで補うことも可能です。実際に米国では、オンライン上の学習内容や、何らかの専門性を持った人の自分の仕事内容や業務経験をポートフォリオにまとめて提出することで、大学の一部の講義を履修したとみなし単位を認定する仕組みやサービスが生まれはじめています。

KNEXT -
http://www.knext.com/

オープンエデュケーションが既存の教育機関を補う形で広がることで、既存の教育システムの限界を補いより多くの人々が学ぶ機会を増やすことも可能と考えられます。