2013/07/04

これからのMOOCsプラットフォームに期待したいこと


ここ最近仕事の関係で、米国でオープンエデュケーションの活動や、MOOCsを大学教育に導入するプロジェクトに関わっている方々とSkypeで話をする機会がありました。そのとき改めて感じたことは、米国における教育のオープン化は、公立大学の財政難や学費高騰、入学者の多様化など、いま米国で顕在化している教育課題と直結して進んでいるということです。



確かに、2000年に始まったオープンコースウェアのような活動は、オープン性を重んじる理念にのっとって推進された部分が多分にありますが、特にリーマンショック以降は、10年来インターネット上に蓄積された無料の教育コンテンツを活用して、まず目の前の教育課題に応えようとする活動へ、より資金と人が集まっているような印象を持っています。

昨年から注目を集めているMOOCsもその動きの中で捉えることができます。そもそもMOOCsはオンライン上でこれまでになかった教育方法をとることができる学習環境です。
例えばcMOOCs上での学習者は、それぞれがインターネット上の様々な情報や教材を集め、学びの成果をブログやポートフォリオにまとめてゆくことで、学習者それぞれが多様な学びを得ながら影響を受けあって、相互に交流しています。

またCourseraで学ぶ学習者は400万人を超えるようなとてつもなく大きい学習者のネットワークに加わることとなります。その中で互いに教え学びあい、時にはミートアップのような「オフ会」で実際に出会って、互いのやる気を高めあいながら、知識や技術だけでなく、お互いの多様な生活環境や人生の目標を知りながら、広い意味での「学び」や「気づき」を得るきっかけにもなっているはずです。

しかしMOOCsをいかに使うかについて現状注目されているのは、もっぱら大学との「接続」です。今ある大学教育で用いる教材のレポジトリとしてMOOCsを使い、反転授業のような授業形態と組み合わせて授業の効果を高めるパイロットプロジェクトや、MOOCsを使いオンラインで安価に学位を取ることができる大学院を設けるなど、今ある教育制度をそのままに、それを補強する形でMOOCsを使いオンライン教育を導入する取り組みが先行しています。この意味で、少なくとも現状ではMOOCsは新しい教育を創り出すというよりは、今ある教育の仕組みの中に「日用品(コモディティ)」として取り込まれている観さえあります。


これから日本においてもMOOCsを個人的に開いたり、東京大学や京都大学のようにMOOCsプロバイダ/コンソーシアムに加入してオンライン教育を始めたりする大学が増えていくと思われます。それに並行して、日本でもMOOCsプロバイダやコンソーシアムを立ち上げる動きも出てくるのではと予想しています。実際、すでにいくつかの企業がMOOCsを運営できるプラットフォームを発表しています。

レゾナント・ソリューションズ -MOOC業種別パッケージ紹介
http://newresonant.com/

しかし正直、個人的にはこのようなプラットフォームに少々違和感を持っています。といいますのも、MOOCsは世界に開かれる教育プラットフォームという性格上、いくつかの条件を持つべきだと考えているからです。甚だ私見ではありますが、その条件を列記したいと思います。この条件にあてはめると、edXはかなりいい線まで行っているかと思いますが、その他のプラットフォームにはないものもあります。

これから、このような条件を兼ね備えたMOOCsが国内外に増え、学びの風景がより豊かに多様になっていくことを期待したいですし、私自身もそのような活動に参加してゆきたいと考えています。


1) オープンソースのプラットフォームであること
MOOCsで公開された教育コンテンツは教育者の資産であり、蓄積された学習者の履歴情報はその後の学びへの手がかりとなる貴重なデータです。プラットフォームが特定のシステムやプロバイダに完全に閉じ込められていると(ベンダロック)、そのプロバイダやシステムベンダーが消滅してしまうと、コンテンツやデータが失われてしまうことになります。オープンソースのソフトウェアでMOOCsプラットフォームを組むことはこれを回避する一つの手段です。開発コミュニティが世界中に広がることで開発に持続性をもたらされ、時代や地域に即した機能が追加されることで、貴重な教材やデータが失われる事態を防ぐことができます(もちろんオープンソースのコミュニティを維持することには、大変な努力が求められるのですが…)


2) 他のMOOCsとの相互接続性を持ちうること
これは1)とも関連しますが、他のMOOCsプロバイダとの相互接続性(インタオペラビリティ)を持つことが望ましいでしょう。最近ですとLTI(Learning Tools Interoperability)と呼ばれる、LMS(学習管理システム)の間で学習者の情報や履歴を共有し合える規格が開発されています。異なるMOOCs間で学習者の履修データを共有することで、学習者が次に学ぶ教材の推奨(リコメンデーション)に役立てることもできそうです。

また、オンライン講義自体の共有や融通もできれば素晴らしいと思います。教育コンテンツが一つのMOOCsに閉じ込められるのではなく、ビデオやテキスト、クイズなど素材の部分で融通し合えるようになれば、プラットフォーム自体もよりオープンに、「風通し」もよくなるのではないでしょうか。

IMS Global: Learning Tools Interoperability
http://www.imsglobal.org/toolsinteroperability2.cfm


3)誰しもがオンライン講義を公開できること
いまある多くのMOOCsは、プロバイダやコンソーシアムが大学など組織レベルで契約を取り付けた上で、教員がコンテンツを公開する形になっています。このとき問題となるのは、大学がプロバイダと契約していなければ、いくら一人の教員が頑張ってもMOOCsを公開することはできないことです。また、大学とMOOCsプロバイダ/コンソーシアムとの契約は大学のトップレベルで行われるため、どうしても実際の授業での活用もトップダウンに進むことになります。先日のサンノゼ州立大学哲学科がJusticeXの利用を拒否した「事件」も、このようなトップダウンの導入に対する反発もあったのではないでしょうか。

組織レベルの契約にとらわれず、そして教員など教育を仕事としている人たちにも限らず、あらゆる人がオンライン講座を自由に開講できるようなプラットフォームがあれば、MOOCs活用の姿も多様になり、オンライン教育の様々な可能性が生まれるのではないかと考えています。