2012/11/03

OpenEducation Conference報告:(3)MOOCsは"OpenEducation"じゃない!? オープンエデュケーションをめぐる多様な立場



引き続きOpenEducation Conference2012の報告です。今回で3回目、これで最後となります。

今回興味深かった状況として、このカンファレンスにおけるMOOCsの扱いがありました。以前も書きましたが、ここ一年でMOOCsと呼ばれる、ベンチャー企業や大学によるオープンなオンライン教育の取り組みが急速に広がっています。

The Shigeta Way: MOOC(Massive Open Online Courses)の盛り上がりと、見えてきた課題
http://shige.jamsquare.org/2012/07/moocmassive-open-online-courses.html



当初私は、今年のカンファレンスでMOOCsの持つ可能性についての議論が聞けることを期待していました。ところがいざ参加してみると、MOOCsはオープンエデュケーションの新しい活動として賞賛されるどころか、批判の対象となっていました。カンファレンス初日から「MOOCsはオープンエデュケーションとは言えない!」と批判するキーノートで始まり、その後の発表でも、MOOCsは一時的な流行であって、教育を破壊的に革新することはないだろうと論評されるなど、総じてMOOCsについては静観、もしくは批判的な見方が目立ちました。

ちなみに、ここでのMOOCsとは"xMOOCs"と呼ばれるものです。先日の教育工学会のワークショップでご一緒した関西学院大学の武田先生に教えて頂いたのですが、MOOCsには大きく分けて2つの種類があります。
  • xMOOCs:CouseraやUdacity、EdXのようなトップユニバーシティが行う一般向けのオンライン教育。無料でオンライン教育コースが公開され、誰でも受講することができる。コースには教材のほかクイズやテストも含まれ、コースを完了した参加者には認定証が与えられる
  • cMOOCs:大学教員などが個人レベルで行う一般向けのオンライン教育。オープンなコンテンツを使い教師と生徒が協同的に学ぶことを目指す。"MOOCs"の名前はこちらが発祥で、George Siemensが"Connectivism"の講義を行ったのがMOOCsの創始とされる (…長くなるので、また改めて解説します)
OpenEducation Conferenceの参加者は、大学関係者だけでなく、寄付団体の支援を受けた政府や州の教育担当者、非営利団体の職員、教育ベンチャーのCEOなど多岐に渡ります。彼らにはこの10年来、世界中のより多くの人たちに対して教材や教育機会を提供することで、より多くの人たちが有利な就業環境や豊かな人生を得られるよう活動を続けてきた実績と自負があります。

CouseraやEdXなどのxMOOCsは、無料で大学の講義を受けることができるという意味で、「オープンな教育」と言えます。しかし、まだ参加している大学もほんの一握りで、開講している講義数もまだまだ少なく、ビジネスモデルも確立していません。重要なことは、xMOOCsはこれまで教育のオープン化に携わってきたコミュニティの中で生まれたものではなく、その外で立ち上がった活動だということです。カンファレンスの参加者にxMOOCsについての考えを聞くと、取り組みの新しさや教材の質についてある程度評価する意見もあったものの、一時的なバブルで終わりかねないとの懸念も持たれていました。

MOOCsのようにマスメディアにも頻繁に取り上げられるような派手な活動とは対照的に、先に紹介したSaylor財団のようなオープンな教材のみで学士号を取ることができる仕組みを提供したり、Mozilla Open Badgeのようにオンライン上の学びを認定する枠組みを構築したり、Open Course Libraryのようにカレッジで使うことのできる教科書を開発したりなど、この10年来続けられてきた活動は地味ではあるものの、徐々に実を結びつつあります。ひとくくりに「オープンエデュケーション」と言っても、その活動に関わる主体や目的、活動資金の提供先によって取り組みも解釈も様々です。私にとって、今年のOpenEducation Conferenceは、オープンエデュケーションをめぐる活動が実用段階に達すると同時に、MOOCsのような新しいプレーヤによる外部からの刺激にも影響を受けながら、活動が急速に多様になっていく様子を見ることができたという点で、大変有意義な機会となりました。


なお、今回のカンファレンスで知った面白いキーワードが"Edupunks"でした。"Edupunks(教育パンク!?)"は、既存の教育システムに縛られることなく、自らの意思によって"Do It Yourself"で学んでいこうとする姿勢を指すようです。学習にOERを活用しながら、教え合いや学び合いによって知識を得たり、自らが学んだ「経験」をデジタルストーリーテリングによって共有する活動もあります。代表的なものがEdupunksの提唱者?でもあるJim Groomらが運営するDS106です。

Digital Storytelling - We jam econo -
http://ds106.us/

Edupunksの活動を紹介した書籍として「DIY U」があります。なかなか面白い本です。こういう本の和訳が出ると、日本におけるオープンエデュケーションの捉え方も多様となり、有意義なのではと考えています。

DIY U: Edupunks, Edupreneurs, and the Coming Transformation of Higher Education: Anya Kamenetz: 9781603582346: Amazon.com: Books -
http://amzn.com/1603582347