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このサイトは重田勝介の個人サイトです。主に日々の活動について紹介しています。重田は教育工学とオープンエデュケーションの研究者で、北海道大学に勤務しています。詳しいプロフィールこちら
Katsusuke Shigeta Ph.D (Human Sciences at Osaka University) , a researcher conducting educational technology & open education research at Hokkaido University, Japan.

2012/07/12

MOOC(Massive Open Online Courses)の盛り上がりと、見えてきた課題

ここ最近、私が研究しているオープンエデュケーションの活動について、人前でお話をする機会を何回か頂いています。先月は、私が所属している日本教育工学会のシンポジウムにお招き頂きました。こんな場所で私が話をしていいのかしら…?という疑問を最後の最後まで拭えないままでしたが、いったいあれは、あのときの私は大丈夫だったのだろうか…?と、未だに不安になる今日この頃です(汗)。

オープンエデュケーションの活動の話は、東大TVやiTunes Uなど、私が職場で携わっている仕事とは関係しますが、それを除いては、全く個人的に面白がって調べたり、果ては情報サイトまで作って楽しんでいるだけの話なので、はからずも目をかけて頂いて、恐縮している今日この頃です(本当ですよ)。

さて、今日ご紹介したいのは、ここ一年ほどで急速に注目を集めはじめたMOOC(Massive Open Online Courses)です。ムーク、とでも呼ぶのでしょうか。和訳すると「大規模公開オンラインコース」。インターネット上で学習コースを無料で公開し、受講したい人は誰でも自由に受けることができる取り組みです。



主な特徴として以下5つが挙げられます。

  • コース提供者は、学習コースやビデオ講義や配布資料などの教材を、全て無償で提供する
  • 学習者は自主的にコースを受講する
  • 学習者は同じコースを受ける人たちのコミュニティに参加し、互いに教え学び合う
  • 学習者は用意されたテストやエッセイを提出したり、学んだ内容をブログ等で発信する
  • コースを終えた学習者には、コース完了を証明する「バッジ」(認定証)がコース提供者から与えられる(バッジは有償の場合あり)


MOOCを名乗って初めて提供された学習コースは、2009年のConnectivismの講義だと言われています。詳細については、以下Wikipediaの記事が詳しいので、興味をお持ちの方はご覧ください。

Massive open online course - Wikipedia, the free encyclopedia -
http://en.wikipedia.org/wiki/Massive_open_online_course

私がはじめてMOOCと呼ばれるものと出会ったのは、オープンエデュケーションの推進者の一人であるDavid Wileyが開設した「Openness in Education」でした。

Introduction to Openness in Education -
http://openeducation.us/

この講義では、用意されたコースを受けて、自分が学んだこと、疑問や質問をブログやTwitterで発信します。受講者同士がそれらを見合い、互いに議論することで学習を進めることが狙われています。初めてこのコースを見たときの感想は、「こんな『緩い』やり方で学ぶなんで面白いなぁ。でもコースを受けるためにブログを書くのは結構大変そうだな。英語だし。。。」という感じでした。まぁ、ありがちな反応ですが。結局私は、自発的なやる気だけで最後までやり遂げられるか不安になり、教材をいくつか見ただけでした。


最近話題のEdXやCoursera、UdacityなどもまさにこのMOOCの仲間です。
EdXの前身となったMITxやUdacityの教材を見てみると、短いビデオと知識を確認するテストが順序よく並べてあって、デジタル教材としても工夫されています。

Udacity - 21st Century University -
http://www.udacity.com/


MOOCは遠隔教育やeラーニングとはどこが違うのでしょうか。無料であることに加え、一つは学校や大学など、教育機関に在籍していなくても「受講」できる点、もう一つは教育機関に在籍していない人でも「開講」できる点だと思われます。後者の、自由に「開講」できるというのは大きな違いです。これまでのネットワーク上で行われる「学び」は、基本的に学校や大学が主宰するものでした。MOOCはそうではなく、誰でも「教育者」になることができます。

オープンエデュケーションの活動の中には、教え手が教育のプロフェッショナルでない場合でも、インターネット上における評価によって、優れた教育者と認められる例があります。その好例はKhan Academyです。Khan Academyの創始者のSalman Khanは元々投資アナリストでしたが、親戚に数学を教えるために作った教材ビデオが分かりやすいとの評価をインターネット上で受け、学校でも使われるビデオ教材となりました。今では、Salman KhanはKhan Academyを運営する非営利団体を立ち上げました。

Khan Academy -
http://www.khanacademy.org/


やる気があれば誰でも学ぶことができて、完遂すれば能力を認定するバッジももらえる。MOOCは夢のような学習サービスにも思えますが、いくつか課題もありそうです。

その一つがドロップアウトです。オンライン学習を進める場合、学習者が学習を継続できるようにするための支援が欠かせません。MOOCで学ぶ場合、学習者は一人でコースを受講しはじめ、学習コミュニティに参入します。ここで得たつながりが、どの程度、学習者の内的な動機付けに寄与できるかは不明です。また、教育機関による遠隔教育やeラーニングは、学習が完了すれば単位が付与されます。MOOCではその代わりに「バッジ」が与えられますが、これがどの程度、学習者の外的な動機付けになりうるかもよくわかりません。

MITxについてはデータが公表されています。元情報を見つけることがまだできていないのですが、全体の受講者が15万人以上、その中でコースを完了しCertificateを手にしたのが7000名強と言われています。全体のおよそ5%です。この数字をどう評価するかは難しいところですが、コースを完了することは決して容易ではなさそうです。

MITx - the Fallout Rate -
http://www.i-programmer.info/news/150-training-a-education/4372-mitx-the-fallout-rate.html

学習者の内的動機付けについては、Udacityが面白い取り組みを始めています。参加者がチームを作ってUdacityで学び、チームの得点を競うコンペを始めています。身近な人たちでコミュニティを作り、今ある人のつながりを上手に使いながらオンライン学習を進めようという狙いと思われます。

Udacity - 21st Century University -
http://www.udacity.com/hschallenge


私はこれまで自身の研究活動や実践において、遠隔教育やeラーニングの活動を見てきました。MOOCには大きな可能性を感じる反面、MOOCでの「学び」や活動を、どの程度学習者にとって意味のあるものとして位置づけられるのか、課題がいくつかあるように感じています。このような課題に応えるためには、これまでオンライン学習の研究・実践で積み重ねられ培われてきた知見を役立てることが欠かせません。このような観点から、引き続きMOOCについて考えていきたいと思います。できれば今度こそ、どこかのMOOCをコース完了まで学んでみたいですね。それが当面の目標です。