「オープンエデュケーションと大学」と題して、ICTを用いた教育のオープン化がもたらす可能性と課題について話をしました。 既に学生は講義以前に、OERやOCWなどのオープンな教材(OER:Open Educational Resources)の予習を済ませていたので、私からはこのような活動の背景や、大学における実務担当者としての実感について述べました。
講義の後半にディスカッションの時間を設けました。学生からの質問が大変的を得ていて、何度か説明に窮することもありました。私の研究テーマについて深く考える有意義な機会を頂きました。どうもありがとうございました。
学生から受けた質問は、主に以下3点に集約されます。私なりの答えを改めてまとめてみます。
- なぜ大学がICTを使ったオープンエデュケーションの活動を行うのか?オープンキャンパスなど、既存の活動で十分ではないか?
大学が取り組むオープンエデュケーションの活動には、理念的側面と実利的側面があります。
理念的側面として、一つは大学の持つ「知」を高等教育を受ける機会を持たない人々にとってアクセス可能とすること、すなわち社会貢献・国際教育協力です。もう一つは公共財としての大学が、社会への説明責任(アカウンタビリティ)を果たすことが挙げられます。
実利的側面としては、入学志望者へのプロモーションやリクルーティング、英語でのOER発信によるグローバル化対応、オープン化による質向上とコスト削減が挙げられます。 - 大学によるオープンエデュケーションの「聴衆(オーディエンス)」は誰なのか?
学生である場合と、大学を卒業した社会人である場合が考えられます。
学生の場合、講義ビデオや資料を講義の中で使うことが考えられます。最近だと「反転授業(Flipped Classroom)」のような、基礎知識は講義前後に自習し、講義の時間を理解を深める知識確認やディスカッションに使う学習形態が注目されています。OERはこのような活動の自習教材として使うことができます。
社会人の場合、生涯学習(Life-long Learning)の視点から、働きながら学びたい専門知識や教養について自学自習することが考えられます。OERを用いた学習をオンラインコミュニティで行えるウェブサービスが、欧米を中心に数々生まれています。
大学発のOERやOCWがどのように使われているのか、図示してみました(下図)。ウェブ上のスタディグループやオンライン大学が、大学で作られたOERやOCWを教材として使っています。学生や社会人が大学の外の学習コミュニティで補習をしたり、単位互換制度を用いて足りない単位を補充することも可能です。この捉え方において、大学の外にある学習コミュニティと大学は、相互に補完し合う関係になりうるといえます。 - 日本の大学は「遅れて」いるのか?そうであるならば、理由は何なのか?
なかなか耳の痛い話ですが…。
理由は二つありそうです。一つは資金面の問題です。日本の大学によるオープンエデュケーションの活動は、ほぼ大学自前の支出で行われていますが、欧米の場合は財団による寄付、アジア地域だと政府により支えられています。大学の財政状況も厳しい昨今、大学が身銭を切って新しい活動を始めることは、他の活動を縮小することにつながります。その意味で、なかなか実益が見えづらいオープンエデュケーションの事業に、支出を割り振ることは容易ではありません。
もう一つは、これは個人的な感触ですが、「危機感の違い」とでも言えるでしょうか。決して、日本の大学関係者の危機感が足りないという意味ではなく、日本と比べ海外の大学の方が、より高等教育の抱えている問題が顕在化していて、大学内外で大学の行く末がより深刻に捉えられているような気がしています。
講義を終えて改めて感じたことは、「オープンにできるからオープンにしよう!」というだけのノリでは、教育のオープン化は続かないな、ということです。大学が悩んでいること、社会が大学に求めていること、オープン化により可能になること、できないことを見据えた上での活動でないと、オープンエデュケーションの活動は一時的なブームで過ぎ去ってしまいそうな気がしています。それは余りにもったいないことです。
「フリー(無料)」という話と、「教材の再利用可能」という話が混じっている気がしますね。 #ne_et
— Matsunaga, Kenjiさん (@kmatsunaga) 5月 30, 2012
「フリー(無料)」ということを考えれば、(今でも参加者からお金を徴収していない)公開講座とか、オープンキャンパスの模擬授業をネット配信すればいいので、日本の大学も比較的取り組みやすいと思います。これらは、大学内でも予算がついているのでお金の心配は少ないでしょう。 #ne_et
— Matsunaga, Kenjiさん (@kmatsunaga) 5月 30, 2012
「教材の再利用可能」は、オープンソースのソフトウェアと同様に、多くの人によって、品質改善がなされるので、教材の質の向上に寄与すると考えられます。ソフトウェアは無料、それを活用するサービスは有料という枠組が、教育でも適用されると考えられます。 #ne_et
— Matsunaga, Kenjiさん (@kmatsunaga) 5月 30, 2012