2012/10/19

OpenEducation Conference報告:(1)教科書によるオープン教材の「実用化」

バンクーバーにて「Open Education Conference 2012」に参加しました。
このカンファレンスでは、オープンエデュケーションやオープン教材(Open Educational Resources: OER)の推進と活用について実践報告や情報共有を行なっています。

Open Education Conference 2012
October 16-18, Vancouver BC -
http://openedconference.org/2012/

私は昨年に引き続いて参加をしました。今年はCourseraやedXなどのMOOCsが立ち上がり、オープンエデュケーションの活動は大きな転機を迎えました。そのせいか、昨年と比べてこのカンファレンスに参加している人たちの活動の特徴がより際立ったように感じました。これから3回に分けて、今年のカンファレンスで得た情報を元に考えたことを共有したいと思います。




まず1つ目として、OERを開発する取り組みが、大学向け教科書の公開という形で「実用段階」に入ったことが注目されます。

10年ほど前から取り組まれるようになったオープン教材(OER)の開発は、MIT OCWなど大学講義の資料をネット上で無償公開する活動から始まりました。現在でもOCWは世界各国で運営され実験的なOERの開発も進められていますが、近年目立ってきたのは、ネット上に蓄積されたOERを活用して大学向けの教科書を公開する取り組みです。ゲイツ財団の支援などによって、カレッジ向けのオープンな教科書(Open Textbook)が数多く制作されています。実際にオープンな教科書を大学の授業で使い、通常の教科書を使った授業と比べて教育効果に大きな差がないことを示す研究も数多く行われています。

オープンな教科書を使って学ぶことで単位や学士号が取得できる取り組みも広がっています。Saylor財団は250を超える教科の教科書を開発し無償公開しています。Excelsior Collegeというオンライン大学と連携し、Saylor財団のオープンな教科書で学んで試験をうけることで、単位や学位を取ることができます。学位取得にかかる費用も大変安価で、1万ドル程度で学士号が取れるプログラムが提供されています。

The Saylor Foundation -
http://www.saylor.org/

オープンな教科書が積極的に公開されるようになったのは、米国や南アフリカ、ブラジルなどの発展途上国における教育問題が背景にあります。米国では、カレッジの学費に占める教科書代の割合が半分を占めるとされています。リーマンショック以降の不景気も背景に、教科書を買えないために授業の履修を諦める学生も出るなど、教科書が手にはいらないことが教育機会を失わせる要因になっています。そのため、教科書をより安価な形で普及させ、教育を受ける障壁を減らすことが社会的に強く要請されています。
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米国カレッジで学生が教科書に使う金額が減少。高価な教科書を避け、ネット上の情報で済ませているとの見方も:Students Spent Slightly Less on Textbooks Last Year, Survey Finds http://chronicle.com/article/article-content/133279/?utm_so...
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発展途上国においては、良質で安価な教科書が不足しているだけでなく、大学の数自体も不足しています。ブラジルでは、大学に入学したい学生の需要に応えるためには、今後15年で毎年4つの新しい大学を作る必要があると見込まれています。発展途上国では経済成長や産業の近代化を受けて、高度な知識や技術を持つ高等教育を受けた人材が多く求められています。このギャップを埋める対策として、オンライン大学を拡充して安価な教育機会を提供し、高等教育を受けた人材を安定して供給しようとしています。

このように、近年のオープンエデュケーションの活動は、社会貢献活動として推進するだけではなく、オープン化を教育問題を解決するために実際的に使うアプローチが主流になりつつあります。その意味において、オープンエデュケーションの活動は社会的な「善」を追求する理念主導型の活動から、課題解決に貢献する実用的な活動へと比重が移ってきたと考えられます。