昨日までカナダ・バンクーバーにてOpen Education Conference2015に参加していました。
http://openedconference.org/2015/
今年はようやくプロポーザルが採択され、カーネギーメロン大学のOpen Learning Initiativeと連携した北大のOER活用事例について発表しました。加えてOE ConsortiumによるOpenMOOCの発表の中で、edXで開講した北大MOOCの事例を発表しました。オープンエデュケーション本場の学会で活動をアピールすることができてよかったです。
-T.Nagashima, K,Shigeta, N.Bier (2015) Tackling a lack of local OER: How international OER adoption enhanced the quality of learning on campus, Open Education Conference 2015
http://openeducation2015.sched.org/event/49Nq/tackling-a-lack-of-local-oer-how-international-oer-adoption-enhanced-the-quality-of-learning-on-campus
-U.Daly, K.Shigeta (2015) Using Open Licenses to Enhance Collaboration and Reduce Costs in MOOC Development, Open Education Conference 2015
http://openeducation2015.sched.org/event/49Np/using-open-licenses-to-enhance-collaboration-and-reduce-costs-in-mooc-development
注)リンク先に掲載の発表者・名前順は実際のものと異なります
OpenEd Conferenceはここ数年アメリカ(一部カナダ、イギリス)の事例がほとんどで、参加者もおそらく半分以上がアメリカ人と、ずいぶん自国向けの学会になりました。アメリカの最新事情を知るいい機会である一方で、他国の事例に乏しく、もっといろいろな事例を知りたい私にとっては少し物足りなくも感じます。
そんな中で、今年のカンファレンスで気になった点をまとめたいと思います。
1)オープン教科書(Open Textbook)の普及で「実用期」から「成熟期」に入ったオープンエデュケーション
数年前のOpen Ed参加報告で、アメリカにおけるオープンエデュケーションがオープン教科書の普及による「実用期」に入ったことを紹介しました。
The Shigeta Way: OpenEducation Conference報告:(1)教科書によるオープン教材の「実用化」
http://shige.jamsquare.org/2012/10/openeducation-conference1.html#more
今年はこの状況がさらに加速し、このカンファレンスにおいては、オープンエデュケーションの活動とは大学へのオープン教科書導入のこと、と言い切ってしまえそうな状況になりつつあります。昨年もそうでしたが参加者の半数が初めての参加者で、自分の大学(カレッジ含む)にオープン教科書を導入したい教職員が情報収集のために来ています。発表ではそういう教職員向けに、大学にオープン教科書を導入する手順やポイントを紹介するワークショップもありました。
大学がオープン教科書を導入する動機は、教育コストの削減と学習効果の向上です。特にアメリカでは大学向けの教科書が高く、Florida Virtual Campusが教育省の支援を受けて実施した調査によれば、フロリダ州の学生の半数以上が一学期に3万円以上を教科書代に費やし、64%の学生が教科書を購入できず、中には取る授業を減らしたり単位を落としたりする学生が少なからずいるとされています。このような状況を改善するため、多くの大学が教員の協力を得てオープン教科書を導入しています。普及しているオープン教科書として、オープン教材リポジトリConnexionsを元にして作ったオープン教科書OpenStax Collegeがあります。
オープン教科書を導入することによって、コスト削減と同時に学習効果が向上することも期待されていますが、これは教育方法の工夫というよりは、教科書を支えることできちんと学べ成績が上がる、または単位を取れるという意味での効果です。実際、いくつかの発表でその効果があったという報告がありました。
※関連発表
Open Education 2015: Adapting Open Stax Content at SLCC
http://openeducation2015.sched.org/event/49Nw/adapting-open-stax-content-at-slcc
Open Education 2015: Developing an OER Campus Action Plan
http://openeducation2015.sched.org/event/49M3/developing-an-oer-campus-action-plan
2)学習履歴データ活用への期待と懸念
欧米ではデジタル教材を使ったオンライン教育での学習履歴データの利活用が盛んで、いわゆるパーソナライズド学習、アダプティブ学習を行うための学習分析(ラーニング・アナリティクス)が実用段階に入りつつあります。すでにいくつかの商用サービスや学習管理システム(LMS)に学習分析の機能が用意されていますが、デジタル教材にOERを使い、OERを使ったオンライン学習者を分析し、達成度評価をしたり学習からの離脱を検知してアラートを出すようなった学習プラットフォームが開発されています。カンファレンスでも"Next Gen OpenCourseWare"を題した、Lumen Learningがゲイツ財団の支援を受けて開発しているWaymakerという、学生の学習状況を把握し教員によるチュータリングを助けるプラットフォームの発表がありました。
Waymaker
http://lumenlearning.com/courseware-waymaker/
また、オープン教材と学習分析、オープンな教育理論(Open Pedagogy)を組み合わせようと提言する発表もありました。学習分析について聴衆を交えてディスカッションするセッションもありましたが、参加者からは学習履歴データの取り扱いへの懸念も表明されていました。またオープン教材はオープンエデュケーションのインフラであり、オープン教材を活用した教育実践が必要だとの意見もありました。
しかしながら、私にはここで扱う教材をオープン教材とする理由があまり見いだせていないように感じられました。すでに他の学会や他の研究グループでは学習分析に関する研究や実践が随分進んでおり、正直若干見劣りする印象です。
関連情報として、昨年アメリカで学習分析に関わる研究者らが学習履歴データの取り扱いについて議論し起草した"The Asilomar Convention for Learning Research in Higher Education "という宣言文書があります。ご興味をお持ちの方はご覧ください。
The Asilomar Convention for Learning Research in Higher Education
http://asilomar-highered.info/
※関連発表
Open Education 2015: Why Open Education Demands Open Analytics
http://openeducation2015.sched.org/event/49J5/why-open-education-demands-open-analytic-models
Open Education 2015: A Path to Open Learning Data?
http://openeducation2015.sched.org/event/49J6/a-path-to-open-learning-data
Open Education 2015: Next Generation Open Courseware
http://openeducation2015.sched.org/event/49Ns/next-generation-open-courseware
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そのほか、OERを活用したカレッジの連携(CCCOER)やオープンユニバーシティの事例紹介、OpenPediatricsという医療従事者の学習コミュニティなど、興味深い発表がいくつかありました。できれば来年もこのカンファレスには出向いて、アメリカにおけるオープンエデュケーションの最新事情を追いたいと思います(発表はもういいかな、という感じはありますが)。
来年4月にはOE Consortiumによる学会OE Global 2015があります。こちらにも北大の事例を発表する論文を投稿していて、採択されればオープンアクセスジャーナルに論文が載ることもあり楽しみです。
オープンエデュケーションの活動は各国・各地域の教育事情に左右されるため、日本には日本なりの教育課題を見据えた取り組み方が必要だと考えています。これからも私なりにそういう活動を実践し、国際的にも日本の活動をアピールしながら海外との交流も盛んにできればと考えています。