ここ最近、edXやCourseraなどのMOOCs(Massive Open Online Courses:大規模公開オンライン授業)を受講した学生に大学単位を認定する取り組みが始まっています。先日、TechCrunchにも事例が紹介されました。
無料のオンライン学習コースが正規に“学歴”として認定へ
http://jp.techcrunch.com/archives/20121114the-school-less-revolution-free-online-courses-being-considered-for-college-credit/
この事例はACE(American Council on Education:米国大学評議会)とCourseraの共同プロジェクトです。ACEがCourseraを受講した学生にACEが発行する単位を授与することが可能か、コースや試験の評価を通して検証を行います。TechCrunchの記事のタイトルを見ると、Courseraを受講すること自体が「学歴」認定になるとも読めます。実際はそうでなく、認定されるのは「学歴」ではなく「単位」であり、単位を授与することもまだ検討中の段階です。
とはいえ、欧米のごく一部ではありますが、MOOCsを使って大学の単位を授与したり、授与できるか検討する事例が出始めています。以下に、いくつか事例を紹介します。
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■単位を与える事例(1):アンティオク大学がCourseraを使った単位取得プログラムを開始
米国私立大学のアンティオク大学(Antioch University)がCouseraを使った単位取得プログラムを開始します。Courseraで公開されるペンシルバニア大学の2つの講義をアンティオク大学の学生が受講し、アンティオク大学はキャンパスで学習支援を行って学生に単位を発行します。このプログラムによる単位は、通常の対面講義の単位よりも安価に提供されるそうです。
Coursera strikes MOOC licensing deal with Antioch University | Inside Higher Ed
http://www.insidehighered.com/news/2012/10/29/coursera-strikes-mooc-licensing-deal-antioch-university
■単位を与える事例(2):コロラド州のオンライン大学がMOOCs(大規模公開オンラインコース) Udacityとの単位互換を開始
コロラド州のオンライン大学 Colorado State University-Global Campus が、Udacityのコースを完了した学生に対し単位を授与します。この他にもUdacityについては、ドイツなどヨーロッパの数カ国で、コースを完了した学生に単位を授与することを表明する大学が現れています。
A First for Udacity: Transfer Credit at a U.S. University for One of Its Courses - Technology - The Chronicle of Higher Education
http://chronicle.com/article/A-First-for-Udacity-Transfer/134162/
■単位を与えることを検討している事例(1):米国大学協会ACEによるMOOCs評価プロジェクト
TechCrunchに紹介された事例です。ACE(American Council on Education:米国大学協議会)が、MOOCsの大学における可能性を検討するパイロットプロジェクトを開始しました。このプロジェクトではCourseraのコースを使い大学単位を発行する検討を行います。ゲイツ財団はこのプロジェクトに3百万ドルの支援を行います。
ACEの発行する単位ACE Creditは、大学外で取得する非伝統的な教育経験に対して与えられる単位で、大学教員のチームによる審議をへて、大学の単位を授与するための推薦を行います。全米で2000の大学がこの推薦を受け入れて単位を発行しています。
このプロジェクトのために、Courseraは教育コースに含まれるテストにおいて、オンライン試験監督企業(online proctoring company)と協同し、ウェブカメラを使ったテスト監視ソフトウェアを導入する予定です。
MOOCsにおける試験実施について、Udacityではテストを自前で行うのではなく、実績のある外部のオンライン試験サービスを利用ことが発表されています。MOOCsによる単位を授与するには、学生がコースで設定された到達目標に達しているかを正しく評価することが求められます。あいまいな判定や剽窃行為などを防ぎ、MOOCsで得られた学びをより確かな形で示すための様々な工夫が考えられています。
ACE to Assess Potential of MOOCs, Evaluate Courses for Credit-Worthiness
http://www.acenet.edu/news-room/Pages/ACE-to-Assess-Potential-of-MOOCs,-Evaluate-Courses-for-Credit-Worthiness.aspx
Coursera Blog • American Council on Education to Evaluate Credit Equivalency for Coursera’s Online Courses
http://blog.coursera.org/post/35647313909/american-council-on-education-to-evaluate-credit
■単位を与えることを検討している事例(1):メリーランド大学におけるMOOCs活用評価プロジェクト
メリーランド大学ではCourseraやedXなどを使い、オンラインコースや、オンラインとオフラインを組み合わせたハイブリッドコースを実施して、効果検証を行います。
この評価プロジェクトは、非営利団体ITHAKAの調査研究部門ITHAKA S+Rが実施します。実施にあたりゲイツ財団が140万ドルを拠出し、フィールドとしてメリーランド大学が協力するようです。MOOCsを有効活用することで、大学教育において費用を抑えながら、教育効果の維持や改善を行うことができるのか、検証することを目指しています。
Gates will fund $1.4 million research project to study MOOC-powered courses at U. of Maryland | Inside Higher Ed
http://www.insidehighered.com/news/2012/11/14/gates-will-fund-14-million-research-project-study-mooc-powered-courses-u-maryland
■そのほか:テキサス大学におけるedXの授業利用
単位の授与ではありませんが、今年X月に4校目としてedXに加わったテキサス大学では、公開コースを使ったブレンド学習(Blended Learning)を行うと発表されています。このように、MOOCs単独で大学の授業を代替し単位を与えるのではなく、大学の講義に取り入れることでMOOCsを教育コンテンツとして活用し、教育の質を高めることを目指しているようです。
The University of Texas System joins edX
https://www.edx.org/press/ut-joins-edx
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まとめると、MOOCsを使った大学単位の認定は、まだごく小規模の取り組みと言えます。しかし、ACEとCourseraのプロジェクトなどで良好な結果が得られると、今後このような動きが急速に進む可能性もあります。
大学外において様々な負担が少ない形で大学単位を取得できることは、時間的または経済的な理由で学位の取得を諦めざるを得ない、特に働きながら大学に通う人たちの学位取得への道を支えることにつながります。MOOCsによる単位授与プログラムは有償で提供される可能性が高いですが、MOOCsの社会的な価値を高めることにつながりますし、オンラインコース自体は引き続き無償公開されるでしょう。私としては、このような取り組みが広がることに期待をしています。