2009/04/10

ウサギとカメ、さあどっち?

おととい、情報学環・中原研究室の学生さんの花見に顔を出しました。桜はちょうど散り頃で、足下にも頭の上にもコップの中までも、花びらが溢れていました。今年は咲き頃と散り頃、両方の桜を堪能できた、ちょっと幸運な年になりました。

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みなさんはAcademic Earthをご存じですか。最近話題の、MITやYale大など、米国の様々な大学の講義ビデオを視聴できるポータルサイトです。

TechCrunch Japan -- Academic Earthは教育界のHuluを目指す
http://jp.techcrunch.com/archives/20090324academic-earth-is-the-hulu-for-education/

上記をご覧になって、こう思われる方おられるでしょう。ほら見ろ。アメリカでは大学の垣根を越えて、講義映像を、全世界に無償で配信している。それに比べ日本の大学は何をやっているんだ。こんなお叱りはもっともです。大学で教育コンテンツに携わる末端の立場として、多いに考えさせられます。以下、言い訳に片足突っ込んでいますが。

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東京大学では東大TVやTodai Podcasts、UT OpenCourseWareを経由して、教育コンテンツを無償で公開しています。国内の少なくない大学でも、同様のポータルサイトが走っていますが、サイトごとにインタフェースも動画のフォーマットもまちまちです。
それには理由があります。まず、各大学が持っているリソースとインフラの違いです。実はこのような活動は、各大学でほぼボランティアか、もしくは非常に限られたリソースで進められています。またストリーミングサーバなど、各校が既に持ち合わせているものを活用したいため、Flashなど比較的新しいフォーマットには、すぐに対応できません。それなりの負荷分散を想定するため、初期投資もある程度求められるのでなおさらです。

もう一つは著作権の問題です。例えば東京大学では、コンテンツの二次利用に制限を設けており、東大TVではそのポータルを通じての利用のみ許可しています。この範囲を広げる可能性は将来的にゼロではありませんが、現状コンテンツを提供していただいている各教員との同意事項を見直すことになるので、時間が必要です。また、より幅広い二次利用条件を、多方面の著作権者の方々に同意頂けるかは未知数です。

そして、日本から教育コンテンツを世界に発信するとき、言語の問題は何より障壁です。日本語で話された講義が海外で使われるためには、英語に吹き替えるか字幕を入れなくてはなりません。UT OpenCourseWareではシラバスや資料の英語版を用意しています(これも費用がかかります)。ですが吹き替えや字幕入れは、比較にならないくらい重い作業です。

Academic Earthは米国のベンチャーのようです。短期間で資金やコンテンツを集め、スピードをもって形にする能力と情熱には脱帽します。しかし、大学が社会に向けて活動するからこそ、より持続的なシステムでもって、継続的に取り組む社会的な義務があります。

コンテンツサプライヤーには、ウサギの仲間とカメの仲間がいます。間違いなくこちらはカメ側でしょう。しかしカメだからこそ、なし得ることもあると信じています。