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このサイトは重田勝介の個人サイトです。主に日々の活動について紹介しています。重田は教育工学とオープンエデュケーションの研究者で、北海道大学に勤務しています。詳しいプロフィールこちら
Katsusuke Shigeta Ph.D (Human Sciences at Osaka University) , a researcher conducting educational technology & open education research at Hokkaido University, Japan.

2014/11/25

Open Education Conference 2014報告(1) オープン教科書(Open Textbook)の普及支援と効果検証

11/19-21にワシントンDCにてOpen Education Conference 2014に参加しました。
このカンファレンスでは、オープンエデュケーションやオープン教材(Open Educational Resources: OER)の普及と活用に関する実践報告や情報共有が行われています。

OpenEd 2014 - http://openedconference.org/2014/


私はここ数年続けて参加しています。毎年、日本からも数名が参加しているのですが、今年は同じ日程でFutureEDUというedX参加校のカンファレンスが(偶然にも)開催されたこともあり、日本からの参加者はどうやら北大からの2名だけだったようです。そういうこともあり、今年のカンファレンスで得た情報を何回かに分けて共有したいと思います。

今年のOpenEdで目立ったトピックの一つは、オープン教科書(Open Textbook)のさらなる普及です。米国でオープン教材(OER:Open Educational Resources)がオープン教科書の普及という形で定着しつつあることは、以前ご紹介しました。

The Shigeta Way: OpenEducation Conference報告:(1)教科書によるオープン教材の「実用化」
http://shige.jamsquare.org/2012/10/openeducation-conference1.html#more

ここ1、2年の傾向として、大学のオープン教科書導入を支援するプロジェクトや企業の活動が活発になっています。

例えばProject Kaleidoscopeは、米国の1300以上の大学が加盟するAssociation of American Colleges & Universitiesが推進するプロジェクトで、STEM教育(Science, Technology, Engineering and Math)の強化を目指しています。この中で、EDUCAUSEやゲイツ財団が運営するNGLC(Next Generation Learning Challenges)の補助金を受けて、OERを大学間で開発して共有する取り組みが進められています。大学で使う教科書をウェブベース(Canvas LMS)で使えるオープン教科書に置き換えることで、全ての学生が初回の授業からこの教科書を使って授業を受けることができます。

また、Project Kaleidoscopeで大学間でオープン教科書を開発するにあたっては、学生の学習効果を高めることを第一にコース設計をし、この教科書を使った授業評価の方法を共通化して教材の改善に役立つデータを集めるなど、様々な工夫がなされているようです。

このようなオープン教科書の導入を支援する企業もあります。代表的なものがLumen Learningで、彼らは自分たちの取り組みを「OERのRed Hat」と呼んでいます。すなわち、Red Hatが企業が導入している有償のOSをLinuxに置き換えて有償のサポートをするように、Lumen Learningは大学が導入している市販の教科書をオープンな教科書に置き換えて教科書代を削減しながら、オープン教科書の選定や導入方法のアドバイスを有償で行います。

Lumen Learningが支援する取り組みとして、Tidewater Community Collegeの"Z-degree"プログラムがあります。これは科学の準学士号(associate degree)を取得するための教科書を無償で提供し、学生が負担する年間1200ドルの教科書代をゼロにすることで、学習効果を高めようとする取り組みです。

このような活動の前提には、米国において教科書代が高騰し(1冊数百ドルするものも)、多くの学生(2/3というデータもあるようです)が教科書を持たずに講義を受けたり、教科書を買えないために講義を取ることを諦めるという問題があります。学生が多額の借金を抱えて卒業することも社会問題化しており、この原因の一つが教科書代の高騰です。いくつかの発表では、オープン教科書を導入したことで学生の教科書の所持率が上がり、講義の修了率が上昇としたとのデータが示されていました。

そもそも適正な価格で出版社の教科書が買えないという状況に根本的な問題があるようには思いますが、少なくともいまの米国においてはオープン教科書の導入が教育コストの削減に大きく寄与していることは確かなようです。また、学習効果についても「学生が教科書を使えるようになった」→「成績が上がった」という遠因を見ているだけなので、本当にオープン教科書だけが学習効果の向上に寄与しているのか、慎重に検討する必要はあります。オープン教科書が市販の教科書と同様のクオリティを保っているのかについても同様です。

ある発表では、市販の教科書をオープン教科書に変えたことで、これまで教科書に付属していた補助教材を使わずに、教員が自作の教材を別途用意するようになったことで、教え方が柔軟になり学習効果が上がったとの報告もありました。オープン教科書が学習効果に与える効果については、今後より詳細かつ慎重な分析が望まれます。
※参考リンク

Lumen Learning
http://lumenlearning.com/

Lumen Learning – Innovative Projects (Lumen Learningが支援するOER活用プロジェクト一覧)
http://lumenlearning.com/innovative-projects/

K-12 OER Collaborative
http://k12oercollaborative.org/

Project Kaleidoscope (PKAL) | Association of American Colleges & Universities
https://www.aacu.org/pkal

Textbook-Free Degree
http://www.tcc.edu/news/press/2013/TextbookFreeDegree.htm

Collaborative Course Design with OER in the Kaleidoscope Open Course Initiative | NextGen Learning
http://nextgenlearning.org/blog/collaborative-course-design-oer-kaleidoscope-open-course-initiative

Making Open Education Easy: New Course Frameworks from Lumen Learning Offer Blueprints for Teaching with Open Educational Resources
http://www.instructure.com/news/press-releases/making-open-education-easy-with-lumen-learning

A Weird but True Fact about Textbook Publishers and OER -e-Literate
http://mfeldstein.com/weird-true-fact-textbook-publishers-oer/