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このサイトは重田勝介の個人サイトです。主に日々の活動について紹介しています。重田は教育工学とオープンエデュケーションの研究者で、北海道大学に勤務しています。詳しいプロフィールこちら
Katsusuke Shigeta Ph.D (Human Sciences at Osaka University) , a researcher conducting educational technology & open education research at Hokkaido University, Japan.

2012/10/25

OpenEducation Conference報告:(2)オープン教材を使った教育実践(Open Educational "Practices")の広がり

会場の隣にあった Vancouver Art Gallery
(時間が取れず行けませんでした…)


引き続きOpenEducation Conference2012の報告です。
今回のカンファレンスにおいて注目に値した2つ目の状況として、オープン教材(OER)を使った教育実践(OEP:Open Educational Practices)が広がってきたことがあります。

当初オープン教材が注目され始めた頃には、まず様々な教科や対象に向けた教材を開発して公開することが主眼でした。OCWに代表されるようなオープン教材が数多く開発され、オープン教材を公開する様々なポータルサイトが大学や非営利団体によって開設されました。近年になって目立ってきたのは、これらのオープン教材を実際に教育現場で使って効果を分析したり、教員や学生がオープン教材を開発することで授業改善や学習活動を行うなど、オープン教材を教育現場に取り入れた実践(Practices)を行う取り組みです。



オープン教材を教育現場に取り入れる実践としては、前回取り上げたオープンな教科書(Open Textbook)の効果測定があります。ある教科において、これまで使っていた教科書出版社が制作した教科書に替えて、同じ内容のオープンな教科書を導入し、学生の学習状況を比較すること教科書の質を分析する研究が数多く行われています。ほとんどの研究では、市販の教科書とオープンな教科書では学生の成績に大きな差はないという結果が出ています。この結果は、新たに用意したオープンな教科書が市販の教科書と同じ内容を持っていれば当然だとも言えますが、カンファレンスでのある発表では、十分な品質を持っていないオープンな教科書を使った場合、学習効果が落ちたとの報告もありました。


ワシントン州でゲイツ財団の支援を受けて行われているOpen Course Libraryというオープンな教科書の普及プロジェクトがあります。この取組では昨年までに42のオープンな教科書を開発し、カレッジの授業に導入しています。教員へのインタビューによると、オープンな教科書を導入するにあたって教員の満足度を上げるためには、

  1. オープンな教科書を作る教員のコミュニティを作り情報交換を図ること
  2. 教員と教科書の著者とのつながりを作ること
  3. 教員から指摘された改訂の要望に対して応えること

などが必要だとされています。
オープンな教科書が使われ続けるためには、それが市販の教科書の「安かろう悪かろう」にならないよう、教員の要望により改訂がされたり、オープンな教科書を使う教員がコミュニティに参加できるなど、教材を使う上での継続的な支援がなされることが欠かせません。

Open Course Library -
https://sites.google.com/a/sbctc.edu/opencourselibrary/


オープン教材を使った教育実践として、教員がグループでオープンな教材を開発するProject Kaleidoscopeがあります。この取り組みでは、教員グループがオープン教材を授業に取り入れて、教材の評価や改善を協同で行っています。このような「教材利用コミュニティ」を形成することで、教師の職能開発(Faculty Development)が促されるとの報告がありました。教員の教育能力の向上や知識共有に役立つ「コンテンツ」としてオープン教材を使うというアプローチで、ひいては教育の質向上にもつながる大変興味深い取り組みです。

Project Kaleidoscope (PKAL) -- Advancing what works in STEM education -
http://www.aacu.org/pkal/index.cfm

確かに、教員が教材を協同で作って使うことは、これまで学校現場で取り組まれてきた教材研究とあまり変わらないようにも思えます。おそらく異なる点は、教員が教科書を一から作るのではなくオープンな教科書や教材が改変できる「素材」として既にネット上にあること、修正や情報共有をネット上で行うことで教科書が改訂され最新の内容を掲載できること、コミュニティの中に授業を進めるにあたってのノウハウが蓄積されることなどでしょうか。インターネットの特性を生かすことで、コンテンツや知恵の蓄積を容易にし、活動を「始めること」と「続けていくこと」の障壁を下げることができそうです。


他のオープン教材を使った教育実践として、学生がオープン教材を作ることで学ぶopen.michiganにおける活動dScribeがあります。open.michiganはミシガン大学がオープン教材を公開するウェブサイトで、open.michiganで公開するオープン教材を学生がボランティアで制作しています。教材を作ることを学生の学習機会にしてしまうという取り組みです。(dScribeは2011年に終了したようです) 

University of Michigan | Open.Michigan -
http://open.umich.edu/

手前味噌で恐縮ですが、東大で行なっている講義「メディア創造ワークショップ」はこれに近い実践のようにも思いました。この講義はメディア実践とキャリア教育を合わせたような取り組みで、学生が社会人にインタビューをした上で、働くことをテーマにしてインタビュービデオや文章の入った電子書籍を制作し、iTunes Uで公開しています。この講義は本年度も開講しています。

大学総合教育研究センター: 「働く」をテーマにした東大学部生によるインタビュー集、電子書籍「東大発2012」をiTunes Uにて無償公開
http://www.he.u-tokyo.ac.jp/2012/04/2011itunes_u.html


このように今回のカンファレンスでは、まずオープン化ありきではなく、教育の質向上や知識共有、学習の促進のためにオープンネスを上手に使ってゆこうとするアプローチが目立つようになりました。日本において教育のオープン化を推進するにあたり、大変参考になる取り組みです。