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このサイトは重田勝介の個人サイトです。主に日々の活動について紹介しています。重田は教育工学とオープンエデュケーションの研究者で、北海道大学に勤務しています。詳しいプロフィールこちら
Katsusuke Shigeta Ph.D (Human Sciences at Osaka University) , a researcher conducting educational technology & open education research at Hokkaido University, Japan.

2010/01/28

iPad発表:私はそれには乗らない(もちろん買いますけど…)

Apple iPadが発表された。

Apple - iPad - The best way to experience the web, email, & photos
http://www.apple.com/ipad/

UStreamでプレゼンを見たが、最初「なんか枠の大きいフォトビューアみたいだな」と思ったものの、最後には完全に「やられました」。来年の今頃はMacBook+iPhone+iPadの三点セットを鞄に入れ、嬉しそうに都内を動き回っていることだろう。

しかしながら同時に、この「現実歪曲空間」かもしれない状況に酔ってばかりもいられないと、我が身を律している。Appleの描いた「デジタルハブ戦略」に乗っているだけで本当にいいのかと、自分自身へ問いかけている。

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今回、AppleはiPadと共に、iTunes Storeの書籍版とも言える「iBook Store」を立ち上げた。Appleはこれで、音楽・ビデオ・書籍など生活をとりまくあらゆる「コンテンツ」を供するシステムを手に入れたことになる。

本務地の大学において、私はその「コンテンツ」を作ることを一つの仕事としている。それは例えば講義映像のビデオコンテンツであるが、その映像はPCでもMacでも、スマートフォンであっても別け隔てなく見れる。仮にコンテンツを「料理」とすれば、ハードウェアは料理を供する「器」にしか過ぎない。ところが、人は器に魅力を感じて料理を食するということがコンテンツの世界では起こりうる。「この映像、iPodでも見れないんですか?」という問いをこれまで何度も聞いてきた。

そして数ある器の中に、明らかに一つ優れた器がある時、その器に合わせた料理を優先的に供することとなる。例えば多くのiPadを大学で使うようになれば、iPadに最適化されたビデオ映像や、iPad上で動作するアプリケーションが欲しくなるだろう。iPadの解像度はXGA(1024x768)である、となると少なくとも720pの講義映像を見れるようにしたいね、となる。Appleはコンテンツを扱うにあたり、ハードウェアの役割がいかに大事かということをよく分かっている。

加えて、その「器」に使い勝手のよい流通インフラが加われば、コンテンツホルダーはそのインフラに載せられるコンテンツを用意した方が、使い勝手もいいし互いにとって利益がある。佐々木俊尚さんが「2011年新聞・テレビ消滅」で述べられた「コンテンツ-コンテナ-コンベヤ」の三層構造のうち、「コンテナーコンベヤ(+ビューア)」はAppleのものならば、コンテンツ供給側はそのフローに乗る、というのが合理的な判断だ。



「器」を制するものが「料理」を制する、という妙な現象がコンテンツの世界では起こりうるのである。

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私はもう今からiPadがとっても欲しくてたまらない(笑
Jobsのプレゼンも最高だったし(ゲームの話を最初に持ってきたのは作戦勝ちだった)、何なら米国で一足先に手に入れて嬉しそうに持ち歩きたい(KALSや福武ホールで見せびらかす等の活動を含む)。

しかし、だからと言って、私は大学からコンテンツを送り出している一人として、従順にAppleの絵に乗ることばかりをよしとは考えていない。

これからの大学は単に知識や技術を伝達するだけでなく、その後の人生においても再利用可能な、教えられた・学んだ「経験」をもたらす場所になるだろう。器は外から買えばいいという考え方もあるだろうが、講義映像をスライドと入れ替わり立ち代わり見る、今の形が最適とは思えない。例えば、両方が十分な解像度で並列に表示出来るディスプレイとか、アノテーションを加えられる入力デバイスとか、「器」の部分でできることはまだまだたくさんある。OLPCを見るがいい、大学でハードウェアを創り出す、というのは消して夢物語ではない。


もうAppleは昔のApple Computerではない。いい器を選ぶことは料理人として必須だが、器から考えたっていいだろう。材料の仕入先からレストランの設計、お客様の口に届くまでトータルでデザインしたいというのが、料理人の「心」である。