2009/04/11

ネットブック

暖かい日が続いています。この前、仕事場の学生スタッフに、所属している研究室の助教さんの話を聞いていたとき、「その人は何歳くらい?」と尋ねると、「重田さんより若くて35、6歳位だと思いますけど」との答え。20代の頃は年上に見られたかったものでしたが、その時が訪れると案外喜ばしくないものだと知った、貴重な経験。

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最近物書きに、いわゆる「ネットブック」を使っています。キーボードの小ささと配列にさえ慣れれば、持ち歩きやすくて便利です。MacBook Airのような薄型PCと比べて、フットプリントが狭いため膝の上で安定しませんが、カバンに本やお弁当を入れたとき、収まりがよくて助かります。
私は画面が小さい方が、なぜか物書きに集中できます。その理由はよくわかりませんが、視野が狭まることに関係があるのでしょう。

2009/04/10

ウサギとカメ、さあどっち?

おととい、情報学環・中原研究室の学生さんの花見に顔を出しました。桜はちょうど散り頃で、足下にも頭の上にもコップの中までも、花びらが溢れていました。今年は咲き頃と散り頃、両方の桜を堪能できた、ちょっと幸運な年になりました。

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みなさんはAcademic Earthをご存じですか。最近話題の、MITやYale大など、米国の様々な大学の講義ビデオを視聴できるポータルサイトです。

TechCrunch Japan -- Academic Earthは教育界のHuluを目指す
http://jp.techcrunch.com/archives/20090324academic-earth-is-the-hulu-for-education/

上記をご覧になって、こう思われる方おられるでしょう。ほら見ろ。アメリカでは大学の垣根を越えて、講義映像を、全世界に無償で配信している。それに比べ日本の大学は何をやっているんだ。こんなお叱りはもっともです。大学で教育コンテンツに携わる末端の立場として、多いに考えさせられます。以下、言い訳に片足突っ込んでいますが。

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東京大学では東大TVやTodai Podcasts、UT OpenCourseWareを経由して、教育コンテンツを無償で公開しています。国内の少なくない大学でも、同様のポータルサイトが走っていますが、サイトごとにインタフェースも動画のフォーマットもまちまちです。
それには理由があります。まず、各大学が持っているリソースとインフラの違いです。実はこのような活動は、各大学でほぼボランティアか、もしくは非常に限られたリソースで進められています。またストリーミングサーバなど、各校が既に持ち合わせているものを活用したいため、Flashなど比較的新しいフォーマットには、すぐに対応できません。それなりの負荷分散を想定するため、初期投資もある程度求められるのでなおさらです。

もう一つは著作権の問題です。例えば東京大学では、コンテンツの二次利用に制限を設けており、東大TVではそのポータルを通じての利用のみ許可しています。この範囲を広げる可能性は将来的にゼロではありませんが、現状コンテンツを提供していただいている各教員との同意事項を見直すことになるので、時間が必要です。また、より幅広い二次利用条件を、多方面の著作権者の方々に同意頂けるかは未知数です。

そして、日本から教育コンテンツを世界に発信するとき、言語の問題は何より障壁です。日本語で話された講義が海外で使われるためには、英語に吹き替えるか字幕を入れなくてはなりません。UT OpenCourseWareではシラバスや資料の英語版を用意しています(これも費用がかかります)。ですが吹き替えや字幕入れは、比較にならないくらい重い作業です。

Academic Earthは米国のベンチャーのようです。短期間で資金やコンテンツを集め、スピードをもって形にする能力と情熱には脱帽します。しかし、大学が社会に向けて活動するからこそ、より持続的なシステムでもって、継続的に取り組む社会的な義務があります。

コンテンツサプライヤーには、ウサギの仲間とカメの仲間がいます。間違いなくこちらはカメ側でしょう。しかしカメだからこそ、なし得ることもあると信じています。

2009/04/08

なじまないのも有意義

今日は朝から花粉が多いのか、鼻がむずむずします。東京に出てきてから、私も嫁さんも花粉症がひどくなったので、先月に空気清浄機を買いました。思うに花粉の差だけでなく、関西と比べて空気が乾燥していて、部屋の中でも花粉が舞いやすいのではと思い、加湿機能付きを選びました。おかげで最近、症状も多少ましになったようです。加湿機能は常にONなので、シーズンが終わらないうちに、加湿機能を切って比較実験をしてみましょう(嫁さんは反対でしょうが)

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私の友人の仕事場に出入りしている学生さんから、興味深い話を聞きました。彼女は建築家を目指しているのですが、そのきっかけは高校時代にあったそうです。その高校はいわゆるSSH(スーパー・サイエンス・ハイスクール)で、遺伝子ゲノムをひたすら解析する理科の授業を受けていました。彼女はその経験から、「もっと身近で分かりやすく、世の役に立つ仕事をしたい」と感じ、建築を志すようになったと話していました。
彼女はSSHでの学びは無駄ではなかった、と考えています。確かに、その高校で生物学者になる道は選びませんでしたが、それを通して彼女は彼女の「好み」を意識しました。授業そのものは、今の彼女の目標に直接役立っていないかもしれません。しかしその経験から、彼女は自分の方向性を見いだしたのです。

もしあなたが、今いる環境は「自分の場所」ではないと感じ、別の道を選ぼうとしているとしても、その経験は、そこに長く居続けたいと思っている人にとってと同じくらい、意味があるのかもしれません。それは決して時間の浪費ではなく、進む道を探すための一つのプロセスだったとも言えます。やりなおすことは、いつからだってできるのですから。

2009/04/06

曖昧な私のオシゴト

��月に入り、暖かな日が続いています。昨日は、行きつけの飲み屋で催された花見に出かけました。公園で見上げる桜。昼間の宴会。ブルーシートに落ちる花びら。春を思い出すきっかけに溢れています。
春は冬と夏の間にあるだけで、そんな特異な季節でもないはずですが、演出がうまいことにかけては、ほかの季節に群を抜いているでしょう。それが春の特異さでしょうか。
そういえば、この春の東京大学公開講座のテーマは「特異」。(わざとらしいのは覚悟の上)残念ながら定員に達したため、参加申し込みは締め切られました。数ヶ月後に、東大TVで公開されますから、そちらでお楽しみください。

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こういう機会に時として、普段おつきあいのない方と仕事の話をします。普段の自分を振り返るいい機会ではありますが、「大学で教育工学を研究しています」との答えは、相手の理解が難しいフレーズです。そのため最初から「教育工学」という単語を使わないように説明しますが、もし話の途中に「やっぱりパソコンやNintendo DSを勉強に使った方が、これまでのやりかたよりも効果的なんですね?」と問われたとき、即答することは(私には)少々困難です。あまりに多くの前提条件があり、それらをクリアしてはじめて効果的なこともある、という答えしか(私には)できないので、相手は、奥歯に物が挟まったような言い方をする人だな、という印象を持つでしょう。

学べば学ぶほど奥が深く、分かると同時に分からないことも増える。これが人文系に限らない、科学の面白いところだとは思いますが、「いやだから科学って面白いんですよ」と言い直したとしても、社会は本当に納得してくれるのでしょうか? 少々不安なところです。

2009/04/01

大学にいることの価値

先週末、ようやく引っ越しが終わりました。一部の学生さんに「どこに行くんですか?」と聞かれてしまいましたが、何のことはない、隣の部屋への引っ越しでした。しかし引っ越しの苦労に距離は関係ありません。
規模としては他に例をみない、教育のオープン化を主目的にした、教育コンテンツの開発拠点です。多くの方に支えられて2年強。皆様のご協力に深く感謝します。

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時期柄でしょうか、この時期は学生の方から、大学院進学について相談を受けます。
経済的事情以外、進学を妨げる理由は私には思いつきません。大学は青年期に、多様なモノの見方を持った人に出会う、確率の最も高い場所です。そのような経験が、それ以降の人生に知的好奇心を高くもって、学び続けられる生き方につながるでしょう。ただし、いわゆる高等教育を受けていなくても、常に学ぶ姿勢を持つ素晴しい方は山ほどおられます(私の義父はその模範です)。どこにいても、学ぶこと、変わることに躊躇しない姿勢を持つことが鍵になるでしょう。

しかし大学とは、研究者になる以外、一般的にいつまでもいられる場所ではありません。どんな立場でも関わり方でも、そこを離れるときが必ず訪れます。そのとき、どうすればいいのでしょうか。一つは、大学で培った人々とのつながりを大事にすることでしょう。少なくとも、ここはいつでも、いかようにも戻って来られる場所です。大学はいつでもあなたを待っています。

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今日は今年度最後の日。夜にはあちこちで歓送会が催され、明日から新たな職場に向かう人々で溢れます。仕事を愛し、仕事に愛された人々の旅立ちの季節。手を振って見送ります。